庚申塔物語

新宿行

新宿行

(昭和63年)7月10日(日曜日)は、山村弥5郎さんの案内で多摩石仏の会新宿見学会が行われる。 西武新宿線下落合駅改札口前に9時30分集合、集ったのは鈴木俊夫さん・林国蔵さん・明石延男さん・犬飼康祐さんに私と紅1点の遠藤塩子さん、それに久方振りの赤木穆堂さんの参加も見られる。 小人数で歩きやすい。

これまでも新宿区内を藤井正三さんの案内で何度か回っている。 今日のコースの一部分も、藤井さんの案内で回ったことがある。 57年8月8日だから6年振りのところもあるわけだ。 この時は西武新宿線の中井駅を起点にしている。

最初の見学は、上落合1丁目26番の月見岡八幡神社である。 境内の富士塚前に表1.-1が木造の覆屋の内に安置されている。総高は1メートル77センチ。塚には猿の石像や丸彫りの天狗 が見られる。近くにある石仏を見て、次の見学場所である高田馬場3丁目37番の観音寺に向う。

観音寺は裏の墓地から入る。 ここには表1.-2表1.-3と2基の庚申塔がある。 2は3面8手の青面金剛であるし、3には雌雄の区別が見られる三猿が陽刻 されている。「毘首竭摩天」と刻んだ自然石文字塔もある。

予定にはなかったが1丁目14番の玄国寺墓地に立寄り表1.-4を見る。

続いて1丁目13番の玄国寺境内で表1.-5表1.-6表1.-7の3基の庚申塔を調べる。 近くの1丁目12番の諏訪神社境内では表1.-8と天和3年の「塞神三柱」を見る。 塞神塔は、上部に日月を刻むもので、主銘の右に「諏訪上下大明神」と「正八幡大明神」、左に「天照大神」と「稲荷大神」を2行に記している。 この光背型塔は、どう見ても改刻塔である。

西早稲田に入り、まず3丁目24番の源兵衛墓地(旧・夾山寺墓地)の表1.-9を尋ねる。 この墓地には「為念仏結集菩提也」の銘が刻まれた慶安3年の5輪塔がある。 甘泉園の公園で昼食を済ませてから、3丁目16番の亮朝院を訪れる。 境内には表1.-10があり、宝永2年の石造の仁王がみられる。 3丁目5番の大日堂前の表1.-11を見て1丁目7番の観音寺を尋ねると、 以前は境内にあった石仏が門前に移されて並べてあるお陰で駐車した車が邪魔でよいアングルで撮れなかった弁天(貞享4年)等が写しやすくなった。 弁天と表1.-12表1.-13の写真を撮ってから、 1丁目1番の宝泉寺に行き、境内の表1.-14を、 続いて同番の竜泉院境内の表1.-15を見てから2丁目1番の穴八幡神社を訪ねる。 境内には貞享4年の塔をはじめ庚申塔が見られるが、塔と前に建っている小屋との間が狭く、おまけに暗くて調べにくい。 28ミリの広角レンズに交換して、ストロボを使いかろうじて写真だけは斜めから撮る。

夏目坂を登り、喜久井町45番の来迎寺に着く。境内にある表1.-16は、新宿区の指定文化財である。

営団早稲田駅から神楽坂駅まで1駅を地下鉄に乗り、筑土八幡町の筑土八幡神社に向う。 境内には表1.-17が見られる。 この塔は、形から見て寛文期のものと思われるが、桃を持つニ猿などは江戸中期以降に改刻されたものであろう。 これを最後に見学を終え、JR飯田橋駅に向う。

新宿区内の主な庚申塔は、今回のコースで見られる。 欲をいって付け加えると、北新宿3丁目23番・円照寺の寛文5年一猿塔、 同じく北新宿3丁目16番・鎧神社の享保6年庚申狛犬、西大久保・全竜寺の寛文12年阿弥陀庚申塔を入れるべきであろう。 もっとも円照寺の塔は、現状が無残でありかつての面影を清水長輝さんの『庚申塔の研究』の口絵写真で偲ぶほかはない。

表1.多摩石仏の会新宿見学会(昭和63年7月10日)にて巡った新宿区の庚申塔
No.年銘塔形寸法備考
1正保4年宝篋印塔32×30×32「奉造立庚申待大願成就」
2正徳4笠付型73×31×29日月・青面金剛・一鬼・ニ鶏・三猿
3寛文6板碑型95×39「奉待庚申満願成就所」三猿
4年不明光背型67×30青面金剛
5延宝3光背型63×27「奉待庚申諸願成就攸」三猿
6宝永7笠付型75×33×23日月・青面金剛・一鬼・ニ鶏・三猿
7寛文5笠付型83×27×28「奉待庚申諸願成就處」三猿
8貞享5板駒型90×39日月「奉待庚申為二世安楽也」三猿
9延宝3笠付型78×32×28日月「奉供養庚申二世安楽處」
10享保10柱状型70×33×21「奉勧請南無帝釈天王」
11大正8柱状型85×32×32日月・青面金剛・一鬼・三猿
12寛文4光背型103×47地蔵「奉待庚申三年一座……」
13寛文7光背型86×39観音「奉待庚申供養現世……」
14延宝8板駒型80×36日月「奉待庚申現世安穏受福……」
15元禄2光背型60×29日月・青面金剛・ニ鶏
16延宝4板碑型138×61日月「奉町庚申現当二世悉地成就處」三猿
17寛文4光背型158×68日月・ニ猿

初出

『私の石仏巡り(昭和編)』(ともしび会 平成7年刊)所収

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