神奈川県相模原市は、私がホ−ムグランドとする多摩地方に境を接しているから、関心のある所で ある。僅か5回の調査で、その1部を廻ったに過ぎないから、全市的な範囲で云々できないために、 最後の調査から7年経た今も、調査資料はそのままの状態である。最近、同市教育委員会発行の『石 仏調査報告書』(昭和53年刊)を入手した。それによると、庚申塔の調査は昭和53年度の予定 だという。今のところ私は、市内の調査を続ける予定はないから、これまで見たり聞いたり、調べた りしたことを書いておく必要があろう。それが調査資料の活用にもつながり、この方面を調査される 方々に何かのお役に立つことだと思う。
前項に書いたように、まだ(相模原)市内の調査が全地域をカバ−していないから、調査洩れの塔 があって、その中に弥陀主尊の庚申塔が発見される可能性がある。しかし、それはそれとして、今ま で調べたものを造立年代順にあげると、
No. | 年銘 | 主尊 | 塔形 | 所在地 |
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1 | 延宝3 | 定印弥陀・三猿 | 笠付型 | 相原町 正宗寺墓地 |
2 | 元禄11 | 定印弥陀・三猿 | 笠付型 | 下溝 古山十二天社 |
3 | 元禄13 | 定印弥陀・三猿 | 笠付型 | 当麻 無量光寺 |
4 | 享保5 | 定印弥陀・三猿 | 笠付型 | 当麻 無量光寺 |
参 | 寛保1 | 合掌像・三猿 | 笠付型 | 当麻 浅間神社 |
5 | 延宝 | 日月・来迎弥陀・三猿 | 笠付型 | 大和市上和田 薬師堂 |
6 | 延宝 | 合掌弥陀・三猿・蓮華 | 板碑型 | 藤野町日連・杉 |
7 | 延宝7 | 合掌弥陀・三猿 | 笠付型 | 相模湖町与瀬 |
8 | 元禄12 | 合掌弥陀・三猿 | 笠付型 | 相模湖町関口 |
9 | 享保3 | 日月・合掌弥陀 | 笠付型 | 津久井町長竹 春日神社 |
10 | 享保3 | 日月・定印弥陀 | 笠付型 | 城山町久保沢 |
1〜4の4基が定印弥陀主尊の塔である。この他にもう1基、風化して主尊の判定に苦しむのが参である。 合掌弥陀か合掌地蔵であろう。頭部の現状といっても調査当時の状態を見ると、地蔵のように思われるが、 はっきりとそうと断定はできない。
伊東重信氏は、『日本の石仏』第3号(昭和52年刊)に「神奈川県にみられる山王系の庚申塔」を 発表されている。それには、神奈川県下の弥陀主尊の庚申塔の分布図が載っている。資料が不充分な せいか、相模原市及びその周辺が空白になっている。しかし市内の阿弥陀主尊の庚申塔を知る上で有 益である。高座、津久井地方で洩れた次のような塔を補えば、相互の関連も掴めるであろうし、神奈 川県下における状態もわかるであろう。私の調査した範囲では、分布図に前記の市内4基の他に、相 模原市外にある5〜6が洩れている。さらに八代恒治氏の報告(本誌第27号23頁)によると10がある。 こうした市周辺に散在する阿弥陀主尊の庚申塔との関係を考慮する必要があろうし、県外の ために分布図に示されていない隣接する町田市内のものも加えて考えるべきだろう。
『庚申』第77号(庚申懇話会 昭和53年刊)所収