庚申塔物語

桃木型の三猿

桃木型の三猿

清水長輝氏が『庚申塔の研究』で記しているように、三猿の変化した種々相は、特に末期の塔にみられる。 千葉県野田市内の塔には、種々の姿態の三猿を刻んだ塔が多く、変化に富んでいる。 その例を大護八郎さんの『庚申塔』にみることができる。

多摩地方にも変わった三猿がみられるので、それらの幾つかをここで紹介しよう。 変わり型の三猿は、大きく5つのタイプにわけられる。 その第1は、「桃木型」と仮に名付けておくが、桃の木の枝に三猿を配している。 第2の形式は、「桃木型」に対する「竹木型」で竹に三猿を配している。 第3のタイプは、1匹の馬に三猿を配した「駒曳き型」と類別できる。 第4を「扇子型」と呼ぶが、3匹の猿が扇子を持つタイプである。 第5は、以上にあげた桃木型・竹木型・駒曳き型・扇子型の4種に属さない、 さまざまなタイプの三猿で、ここでは「雑型」と呼んでおく。

桃木型の三猿を参考までに一覧表に示すと、次のようになる。 [表1]参照

表1.多摩地方にみられる桃木型の三猿
No.年銘西暦中尊塔形所在地備考
1明和8年1771青面金剛笠付型八王子市上恩方町上案下合掌6手
2明和9年1772青面金剛笠付型八王子市南浅川町大平合掌6手
3安永2年1773青面金剛笠付型八王子市上恩方町醍醐合掌6手

一覧表でわかるように、いずれも八王子市内にみられる。 1の明和8年塔、2の明和9年塔、3の安永2年塔の3基の台石に刻まれている。 1から3のいずれの塔も、三猿が桃の木に登っていたり、ぶら下がった姿態で台石正面に浮彫りされている。 子細にみれば、それぞれ違っている。

これらは、後で示すように、桃木型と竹木型、それに駒曳型が八王子市内でみられ、 扇子型が青梅市内とあきる野市、青梅街道沿いの小平にみられるのは、単なる偶然的な符合ではなく、 おそらく石工の関係であろう。

なお青梅市大門・大門会館には、三猿がないが桃の木を台石に浮彫りする寛政6年(1794)文字庚申塔がある。 稀に桃持ち猿の庚申塔がみられるが、こうした桃木型のものはあまり聞かない。

庚申塔ではないが、武蔵村山市中藤・日枝神社にある燈籠台石にこの系統(桃でなく松の枝か)の三猿がみられる。 対の燈籠台石には、相撲をとる三猿が浮彫りされている。

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