庚申塔物語

庚申塔の形態

庚申塔の形態

庚申塔を外観の上から分類すると、次の4つに大別できる。

  1. 庚申板碑
  2. 庚申石祠
  3. 一般庚申塔
  4. 特殊庚申塔

庚申板碑は、庚申供養のために建立された板碑をいい、庚申石祠は、石祠形式の庚申塔である。普通一般に見られるのが、一般庚申塔で、以上のいずれにも属さないのが、特殊庚申塔である。一般庚申塔は、さらに分類されるが、研究者によって違いがみられる。ここでは、『庚申』54号(昭和44年刊)に発表した「庚申塔形分類」の9分類を示すことにする。

1.板碑型
正面を平にし、背面を舟底形にけずる。上部に額部を作り、中央は彫りくぼめて下部に前出をおく。この型のものも、細かく見ると特に額部に変化がある。江戸期の庚申塔としては、もっとも古い部類に属する。多くは文字塔で、時代の下ったものには、青面金剛を陽刻した塔がある。
2.光背型
板碑型に続く形式の塔で、如来の光背をかたどり、背面は板碑型と同様に舟底形である。一般には、阿弥陀如来・観音菩薩・地蔵菩薩などの主尊の塔が多い。
3.板駒型
板碑型と光背型との折衷した形式というべきもので、光背型の上部を将棋の駒のような形にしている。背面は舟底形の荒けずり。青面金剛が刻まれるものが多い。
4.笠付型
塔身の上に笠部を置いたもので、塔身の多くは、角柱であるが、円柱のものや板碑型の上部を切り取って笠を置いた形の塔がある。この型は、刻像塔と文字塔の両方にみられるけれども、どちらかというと文字の塔が多い。笠部の変化から普通笠と唐破風笠とに区分できるしまた塔身からは角柱・円柱・その他に細分できる。
5.駒型
将棋の駒の形をとっている。板駒型と異なる点は、背面が平で両側面も加工してある。板駒型より時代が下り、文字塔が多い。
6.柱状型
角柱型に扁平柱型や円柱型を含めた呼び名である。頭部の変化に応じて平角型・皿角型・山角型・丸角型などに下位分類される。末期の造塔に多い形式である。
7.自然石
自然石を利用して像や文字を刻んだ塔である。角がとれて丸くなった河原石や片石をはがして平にしたものがみられる。東京周辺では末期に造立された「庚申」とか「庚申塔」と刻んだものが多いが、熊本では地蔵菩薩などの像を陽刻した初期の塔がある。
8.丸彫り
よく見られる地蔵菩薩のように、立体的に像を彫った形のもをいう。地蔵菩薩以外は少なく青面金剛もその例である。
9.雑型
これまで述べた一般庚申塔の板碑型から丸彫りまでに当はまらない形式を一括してこの分類とする。

以上ごく簡単に塔形の説明を述べたが、この分類は庚申塔を主体にしたもで、他の石仏にも応用できるが、庚申塔の研究者の間でもいろいろな分類が行われているし、呼び名も違がある。たとえば、私が「板駒型」に区分する塔を「駒型」としたり、あるいは「舟形と呼ぶ場合がある。また私が「板碑型」「光背型」「板駒型」の3種に分けるのを「舟形」に一括する方もおられる。こうした塔形の分類や呼び名を比較されると、各人の違がよくわかる。

例えば、伊藤堅吉氏の分類では破風・板碑・起板碑・舟後光・起舟後光・笠付・櫛・兜巾・打切・丸彫・自然石の11種類である。もし手元に同氏の『性の石神 双体道祖神考』(山と渓谷社 山渓文庫 昭和40年刊)があったら、73ページの「碑形分類図」と対照すると違がわかるだろう。

手元に『性の石神』が場合もあるから、単に分類を挙げただけと、どの塔形が他の方のどの塔形に相当するのか分かりにくい。そこで、相互対照した一覧表を作成したから、次の表によって各氏や各書の違いがわかり易いと思う。

塔形比較一覧表
清水長輝 清水長明 万年一 伊藤堅吉 東筑摩部会 石川博司
庚申塔の研究 相模道神図誌 隅田川辺
庚申塔一覧
双体道祖神 農村信仰誌
庚申念佛篇
三多摩
庚申塔資料
板碑型 板碑型 直孤文舟形瓠 破風 角形 板碑型
光背型 舟形 舟形光背
壺形光背
起舟後光 舟形 舟型
板駒型 舟形 駒形光背 舟後光 舟形 舟形
笠付 方形笠付 笠石方柱石塔 笠付 宝塔 笠付塔
型状柱
 角柱
 山角型
 櫛型
 駒型
 円柱

 方形


 駒型


 塔柱塔
 櫛形
 駒形
 円柱形

 打切
 兜巾
 櫛
 板碑

 方形

 角柱型
 山角型
 角柱型
 駒型
 円柱型
自然石 自然石 自然石 自然石 自然石 自然石
立体丸彫 立像 丸彫 丸彫 立体像 丸彫

参考までに各氏が特殊庚申塔をどのように扱っているかも比較した表を次に示す。

特殊庚申塔比較一覧表
清水長輝 清水長明 万年一 伊藤堅吉 東筑摩部会 石川博司
庚申塔の研究 相模道神図誌 隅田川辺
庚申塔一覧
双体道祖神 農村信仰誌
庚申念佛篇
三多摩
庚申塔資料
五輪塔
宝篋印塔
層塔
石幢
燈籠
石祠彫






石祠




燈籠
石祠





伽藍塔形




燈籠
石祠

なお、『庚申塔の研究』では石祠をさらに(1)宝塔型、(2)入母屋型、(3)流造型の3分類し、(1)の中に宝筐印塔型、(3)の中に唐破風付を含めている。

一般庚申塔は各地でみられるし、南関東の1都3県に限るが次の「いろいろな主尊」で各種の塔形を取り上げているので、そちらを参照していただきたい。南関東の東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県に分布する特殊庚申塔を1都県1例で示すと、次の表になる。該当例がない場合には省略した。

南関東形態別庚申塔一覧表
形態 年銘 所在地 備考
五輪塔 正保3年 東京都杉並区永福 永福寺
慶安3年 神奈川県横浜市緑区田奈町 稲荷社
寛文11年 千葉県我孫子市新木 長福寺
宝篋印塔 宝暦11年 東京都日野市下田 八幡宮
正保2年 神奈川県横須賀市芦名 城山
寛文3年 埼玉県熊谷市玉井前岡
層塔 明暦4年 東京都調布市深大寺町城山 二鶏二猿
元禄3年 千葉県市川市柏井町 土神社
石幢 元禄15年 東京都町田市野津田町 丸山路傍 六地蔵
享保年間 神奈川県横浜市緑区下谷本町 農協前 六地蔵
寛文5年 埼玉県羽生市常木 長光院趾 六地蔵
燈籠 宝暦11年 東京都西多摩郡檜原村大沢 貴船神社
寛文1年 神奈川県川崎市幸区小倉 無量院 六地蔵
元文3年 千葉県我孫子市新木 葺不合神社
寛文9年 埼玉県北葛飾郡吉川町三輪之江 定勝寺 三猿
石祠 寛文9年 東京都町田市三輪町下三輪 中尊大日
万治1年 神奈川県南足柄市飯沢 南足柄神社 二鶏二猿
寛永19年 千葉県安房郡鋸南町下佐久間
鳥居 享保5年 千葉県流山市下花輪 神明社
手洗鉢 寛文7年 東京都墨田区墨田 正福寺
文政10年 神奈川県横浜市保土ヶ谷区保土ヶ谷 帝釈堂
文化7年 千葉県我孫子市新木 葺不合神社
元禄2年 埼玉県越谷市東越谷 香取神社 三猿

[資料提供]横田甲一、清水長明、中山正義、沖本博、伊東重信、小林太郎、林国蔵抜

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