庚申塔物語

阿弥陀の庚申塔

阿弥陀の庚申塔

大分県の秋葉文庫蔵の『庚申之御本地』に「寅・卯 六観音・阿弥陀如来を本尊として未来七仏を念ず」とあるように、 阿弥陀は庚申日の寅・卯の時刻の礼拝本尊を示している(窪徳忠博士『庚申信仰の研究』)。 庚申板碑には、弥陀一尊や弥陀三尊の来迎像あるいは弥陀三尊種子を主尊とする板碑がみられる。

秋川市牛沼・秋川神社旧蔵の永禄2年(1559)懸佛には、上部に梵字が3字、 右側に「文殊生面金剛 薬師 釈迦」が2行にあり、中央に「奉御躰鉢作鎮守」とあって、 その次に「六観音 南無山王二十一社 阿弥陀 牛沼村」、 最後右側に「永禄二己未年捻月廾三日」の銘が刻まれている。 阿弥陀如来は、この懸佛の銘文の中に「阿弥陀」とあるように、庚申信仰と関係がある。 この傾向は、江戸時代のも受け継がれている。

多摩地方でみられる阿弥陀如来は、弥陀定印と弥陀来迎と弥陀合掌の3種がある。 次にその事例を示すと、次のようになる。 [表1]参照

表1.多摩地方にみられる阿弥陀の庚申塔
No.年銘西暦中尊塔形所在地備考
寛永5年1628弥陀定印懸佛八王子市南浅川町山王社座像
1寛文6年1666弥陀来迎光背型調布市深大寺東町諏訪社
2延宝4年1676弥陀来迎光背型調布市深大寺東町諏訪社
3延宝5年1677弥陀定印笠付型町田市小山町 日枝神社上部欠
4貞享1年1684弥陀定印笠付型八王子市山田町 会館
5元禄2年1689弥陀合掌光背型町田市成瀬・吹上 路傍
6元禄2年1689弥陀定印笠付型八王子市万町 観音寺
7元禄9年1696弥陀合掌笠付型町田市木曽町 観音堂
8宝永2年1705弥陀定印笠付型八王子市寺田町 神社裏
9宝永2年1705弥陀定印笠付型八王子市長房町中郷
10宝永4年1707弥陀定印笠付型八王子市高尾町川原宿
11享保4年1719弥陀定印笠付型町田市上小山田町
12年不明--弥陀定印柱状型八王子市宇津貫 福昌寺
13年不明--弥陀定印笠付型八王子市中山
14年不明--弥陀定印笠付型八王子市川口町 三光院
15年不明--弥陀定印笠付型日野市日野本町7普門寺

参の寛永5年懸佛は、直径約28センチ余、中央に弥陀定印の座像 、その左右の下に合掌の猿を向かい合わせて鋳だす。 弥陀の左右に「武州之住椎田郷、案内之村」、左上部に「寛永五戊辰年二月吉日」、 阿弥陀の下に「為庚申供、養待十二、者也、本願栗原、彦兵衛」とある。

1の寛文6年塔は、弥陀来迎立像を主尊とし、その下に三猿を浮彫りする。 「奉造立庚申」「念佛女人同行十人」を刻む。

2の延宝4年塔は、1と同じ所にあるもので、来迎印の阿弥陀如来を主尊とし、下部に三猿を浮彫りする。 施主銘の最後に「女同行拾□」の銘がみられる。

3の延宝5年塔は、弥陀定印と三猿を浮彫りし、「奉納庚申供養諸願成就□」の銘がある。

4の貞享1年塔は、弥陀定印と三猿、「山王大権現」の銘を刻む。

5の元禄2年塔は、弥陀合掌を主尊とすもので「奉納庚申待」の銘が刻まれている。

6の元禄7年塔は正面に定印弥陀、3面に猿を配し、「奉建立庚申供養二世安全處」の銘がある。

7の元禄9年塔は、正面に弥陀合掌、正面と左右領側面の3面に三猿を浮彫りし、 「奉供養庚申青面金剛塔二世安楽也」の銘がみられる。

8の宝永2年塔は、正面に弥陀定印、3面下部に猿を置き、「奉納庚申供養」の銘を刻する。

9の宝永2年塔は、弥陀定印に三猿(3面)、側面に「キリーク 庚申講供養」とある。

10の宝永4年塔は、正面に弥陀定印と3面の三猿、「奉□□」がみられる。

11の享保4年塔は、弥陀定印の主尊と三猿、「奉造立庚申供養」とある。

12の年不明塔は、弥陀定印と三猿がある。

13の年不明塔は、弥陀定印と三猿の浮彫り、「庚申□□庚申塔」の銘を刻む。

14の年不明塔は、弥陀定印に三猿、「□申供養為二世安楽也」とある。

15の年不明塔は、弥陀定印を主尊とし、3面下部に三猿がみられる。

Copyright © 2004 民俗の宝庫 All Rights Reserved.