庚申塔の調査で所在を尋ねる時に、この辺に庚申塔がありますか、と質問するよりは、 お地蔵さまがありますか、と聞いたほうが庚申塔に出会う確率が高い。 庚申塔がありますか、と問うと逆に庚申塔とは何ですか、聞き返されることがあった。 地蔵は、子供の頃から馴染みがあり、石佛の代表的な存在だから、 石佛=地蔵の図式が無意識にあるのかもしれない。 そうした反映があるのだろう、庚申塔の主尊には青面金剛を除くと地蔵が多い。 多摩地方の場合にも当てはまり、最古の塔が地蔵主尊であるのが象徴的である。 以下、地蔵を主尊とした庚申塔をあげる。 [表1]参照
No. | 年銘 | 西暦 | 中尊 | 塔形 | 所在地 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 寛文2年 | 1662 | 地蔵菩薩 | 光背型 | 狛江市岩戸北4 慶岸寺 | |
2 | 寛文2年 | 1662 | 地蔵菩薩 | 光背型 | 昭島市拝島町1 普明寺 | 移入 |
3 | 寛文4年 | 1664 | 地蔵菩薩 | 光背型 | 稲城市東長沼 常楽寺 | |
4 | 寛文6年 | 1666 | 地蔵菩薩 | 光背型 | 小金井市貫井南町3泉園 | |
5 | 寛文6年 | 1666 | 地蔵菩薩 | 光背型 | 小金井市中町4 金蔵院 | 上部欠 |
6 | 延宝1年 | 1673 | 地蔵菩薩 | 光背型 | 町田市木曽町上宿 | 三猿 |
7 | 延宝8年 | 1680 | 地蔵菩薩 | 光背型 | 調布市深大寺元町池上院 | 三猿 |
8 | 延宝8年 | 1680 | 地蔵菩薩 | 光背型 | 稲城市東長沼 常楽寺 | |
9 | 延宝8年 | 1680 | 地蔵菩薩 | 光背型 | 府中市若松町2共同墓地 | |
10 | 元禄2年 | 1689 | 地蔵菩薩 | 光背型 | 町田市真光寺 三叉路傍 | 青面銘 |
11 | 元禄9年 | 1696 | 地蔵菩薩 | 光背型 | 町田市相原町丸山 | |
12 | 元禄10年 | 1697 | 地蔵菩薩 | 光背型 | 八王子市川町 | |
13 | 元禄11年 | 1698 | 地蔵菩薩 | 光背型 | 日野市日野本町5北原 | 三猿 |
14 | 元禄15年 | 1702 | 地蔵菩薩 | 光背型 | 町田市高ケ坂 地蔵堂 | |
15 | 宝永3年 | 1706 | 地蔵菩薩 | 光背型 | 町田市成瀬 観性寺 | 三猿 |
16 | 正徳2年 | 1712 | 地蔵菩薩 | 光背型 | 稲城市百村 白道竜神脇 | |
参 | 正徳3年 | 1713 | 地蔵菩薩 | 光背型 | 調布市深大寺東町 墓地 | |
17 | 正徳6年 | 1716 | 地蔵菩薩 | 光背型 | 日野市日野 仲村地蔵堂 | |
18 | 享保4年 | 1723 | 地蔵菩薩 | 丸彫 | 八王子市越野 玉泉寺 | |
19 | 享保8年 | 1727 | 地蔵菩薩 | 丸彫 | 町田市南成瀬7 路傍 | 一猿 |
20 | 元文5年 | 1740 | 地蔵菩薩 | 光背型 | 町田市小山町中村 | 合掌像 |
21 | 延享2年 | 1745 | 地蔵菩薩 | 丸彫 | 日野市程久保 | |
22 | 宝暦6年 | 1756 | 地蔵菩薩 | 光背型 | 三鷹市中原 三叉路 | |
参 | 天明8年 | 1788 | (文字) | 燈籠 | 八王子市東浅川町山王社 | 併記 |
参 | 嘉永6年 | 1853 | (文字) | 柱状型 | 町田市野津田 綾辺路傍 | 併記 |
参 | 年不明 | -- | 地蔵菩薩 | 柱状型 | 八王子市四谷町 見段塚 | 風化著し |
参 | 年不明 | -- | 地蔵菩薩 | 丸彫 | 日野市石田 石田寺 | 庚申講 |
1の寛文2年塔は多摩地方在銘最古の塔で、地蔵が主尊で 「カ 奉造立庚申之歳奉供養為二世安楽也」の銘が刻まれている。
2の寛文2年塔は目黒からの移転で、地蔵立像に「カ 奉供養庚申講為二世安楽也」の銘がある。
3の寛文4年塔は地蔵を浮彫りした塔で、「念佛供養想衆十人 庚申供養想衆七人」が造立した。 稲城市の文化財に指定されている。
4の寛文6年塔は滄浪泉園にある地蔵で、「カ 奉納勤庚申構者也」で庚申塔であるのがわかる。
4と同じ小金井市にある5の寛文6年塔は、三猿を伴う地蔵で「奉納庚申供養二世安楽所」の銘がみられる。 三猿付の地蔵庚申としては、多摩地方で最も古い。
6の延宝1年塔は、地蔵と三猿を浮彫りする。
7の延宝8年塔は、庚申年に造立された地蔵庚申で三猿を伴い、 「キリーク カーン 為庚申供養二世安楽也」の銘がみられる。
8の延宝8年塔は、「カ 奉供養庚申」の銘のある地蔵庚申である。
9の延宝8年塔は、地蔵に「奉待庚申供養結講衆二世安楽」の銘が刻まれている。 7・8・9の3基は、庚申年の造立である。
10の元禄2年塔は、地蔵庚申であるのに銘が「青面金剛明王諸大眷属」と、 何故か「青面金剛」の銘が刻まれている。
11の元禄9年塔は、「奉待庚申供養」の銘を持つ地蔵庚申である。
12の元禄10年塔は、地蔵を主尊として銘に「奉造立庚申供養諸願成就」とある。
13の元禄11年塔は、三猿を伴う地蔵で「カ 庚申供養」の銘を刻む。
14の元禄15年塔は、「奉納庚申供養」銘を刻す地蔵である。
15の宝永3年塔は、地蔵を主尊とし、下部に三猿がみられる。 三猿と共に「庚申供養二世安楽」の銘も庚申塔を示している。
16の正徳2年塔は、「奉造立庚申待供養」の銘がある地蔵庚申である。
参の正徳3年塔は、「奉造立地蔵尊 庚申講連衆十人」の銘から庚申講の造立した地蔵である。
17の正徳6年塔は、地蔵を主尊とした「奉納庚申供養」の銘を刻む塔である。
18の享保4年塔は、丸彫りの地蔵に「カ 奉造立庚申供養塔地蔵尊諸願成就所」の銘が刻まれている。 これまでは光背型塔であっが、初めて丸彫りの地蔵庚申が現れた。
19の享保8年塔は、地蔵の台石に不聞に一猿と「奉供養念佛庚申為二世安楽」の銘がみられる。
20の元文5年塔は、初めての合掌地蔵で三猿を伴う。「奉造立庚申供養」の銘が刻まれている。
21の延享2年塔は、丸彫りの地蔵で、台石に「庚申供養佛」の銘がある。
22の宝暦6年塔は、三叉路に立つ地蔵で「庚申供養」の他に道標銘みられる。
参の天明8年燈籠は、竿石に「青面金剛庚申」「秋葉大権現」「地蔵大菩薩」と併刻されている。
参の嘉永6年塔は、1塔の3面にそれぞれ「青面金剛」「堅牢地神」「地蔵薩〓」とある。
参の年不明塔は、3角形柱の各面に青面金剛像・地蔵像・「道祖神」を併刻する。 前にあげた参の嘉永6年塔と同じ傾向である。
参の年不明塔は、「奉造立地蔵尊 庚申講中」の銘にあるように、庚申講の造立した地蔵である。