庚申塔物語

扇子型の三猿

扇子型の三猿

扇子型の三猿は、おのおのが手に扇子を持っていることから1つの形式とみることができる。 神奈川県鎌倉市坂の下・御霊神社境内には、文政8年(1825)塔の台石に御幣や扇子型、 拍子木を持つ着衣の三猿が浮彫りされている。 また松村雄介さんが『相模の石仏』207頁に写真をのせた藤沢市本町・常光寺の文政6年塔台石には、 三番叟を演ずる三猿が刻まれている。これに類する塔は、相模原市内にもみられる。

扇子型の三猿を編年順に一覧表に示すと、次のようになる。 [表1]参照

表1.多摩地方にみられる扇子型の三猿
No.年銘西暦中尊塔形所在地備考
1文化2年1812青面金剛雑型青梅市千ケ瀬 宗建寺剣人6手
2文政6年1823庚申塔自然石青梅市黒沢1 野上指
3文政9年1826青面金剛駒型青梅市成木6 慈眼院剣人6手
4弘化4年1847青面金剛柱状型あきる野市伊奈 山王宮剣人6手
5嘉永3年1850青面金剛笠付型小平市天神町 延命寺剣人6手

この型式の代表的な事例は、1の文化9年塔台石に刻まれた三猿である。 烏帽子をかぶり、狩衣を着て扇子で塞目・塞耳・塞口のポーズをとる。 この系統の猿は、2の文政5年塔や3の文化9年塔、あるいは4の弘化4年塔や5の嘉永3年塔にみられる。

八王子にみられる桃木型や竹木型、駒曳型に比べると、扇子型は造立の年代がくだる。 これらの3猿像は、いずれも台石に浮彫りされている。この系統の5基中4基が着衣帯冠のものであるが、 そうでない三猿もある。 3の文政9塔がその例で、無冠・無衣で塞目・塞耳・塞口を扇子を使って示している。

着衣の三猿も細かに観察すると、同一方向に歩む4の塔、1匹だけは逆向きの1の塔、 中央が正面向きに座って両端が外側を向いて踊る2の塔、座って踊る仕種の5の塔と変化に富んでいる。

Copyright © 2004 民俗の宝庫 All Rights Reserved.